旬の特集
文書作成日:2012/01/26



  近年、多くの職場でうつ病など、メンタルヘルス不全の問題が深刻化しています。これに伴い、精神障害の労災請求件数も大幅に増加していますが、そのような中、精神障害にかかる労災認定基準の改定が実施されました。そこで今回の旬の特集では企業の労務管理にも大きな影響があると予想される、その改定内容について取り上げたいと思います。

 厚生労働省が毎年発表しているデータによれば、精神障害の労災請求件数は、平成10年度に42件であったものが、平成22年度には1,181件にまで急増しています。これは職場におけるメンタルヘルス不全問題の増加に加え、精神障害等についても労災保険の対象として認められるケースがあることが、労使の間で認識されつつある結果ではないかと考えられますが、その一方で労災認定の審査期間が長期化しているという問題が発生しています。

 このような状況を受け、厚生労働省は労災認定の手続きを迅速化していくために、平成23年12月26日に精神障害等の労災認定の基準を改定し、労災認定の際に用いる「心理的負荷による精神障害の認定基準」を見直しました。

[新しい労災認定基準]

 精神障害にかかる労災認定は、以下の3つのいずれの要件も満たした場合に行われるとされています。

 @対象疾病を発病していること。
 A対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
 B業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。


 その上で業務による心理的負荷の強度の判断については具体的な取扱いが示されていますが、その手順としては、「特別な出来事」に該当する出来事の有無により以下のとおり判断が行われます。

1.「特別な出来事」に該当する出来事がある場合

 この「特別な出来事」には「心理的負荷が極度のもの」と「極度の長時間労働」があり、具体的には以下の内容が挙げられています。これらの出来事があった場合、心理的負荷の総合評価は「強」と評価されます。

特別の出来事の類型 心理的負荷の総合評価を「強」とするもの
心理的負荷が極度のもの
・生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした(業務上の傷病により6ヶ月を超えて療養中に症状が急変し極度の苦痛を伴った場合を含む)。
・業務に関連し、他人を死亡させ、又は生死にかかわる重大なケガを負わせた(故意によるものを除く)。
・強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた。
・その他、上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの。
極度の長時間労働
・発症直前の1ヶ月におおむね160時間を超えるような、又はこれに満たない期間にこれと同程度の(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働を行った(休憩時間は少ないが手待ち時間が多い場合等、労働密度が特に低い場合を除く)。

 

2.「特別な出来事」に該当する出来事がない場合

 「特別な出来事」に該当する出来事がない場合については、その出来事を「業務による心理的負荷評価表」に当てはめて総合評価を行い、「弱」「中」「強」の三段階で評価が判断されます。また、出来事が複数ある場合については、全体でその心理的負荷の評価が行われることになります。

 以下に現場でよく見受けられる出来事の例をピックアップしました。一つの出来事であっても状況によって心理的負荷の強度が「弱」「中」「強」に分けられ、その具体例が示されています。

@具体的出来事「達成困難なノルマが課された」

心理的負荷の総合評価の視点
・ノルマの内容、困難性、強制の程度、達成できなかった場合の影響、ペナルティの有無等
・その後の業務内容・業務量の程度、職場の人間関係等
心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例
【弱になる例】
・同種の経験等を有する労働者であれば達成可能なノルマを課された。
・ノルマではない業績目標が示された(当該目標が、達成を強く求められるものではなかった)。
●達成困難なノルマが課された
【中である例】
・達成は容易ではないものの、客観的にみて、努力すれば達成も可能であるノルマが課され、この達成に向けた業務を行った。
【強になる例】
・客観的に、相当な努力があっても達成困難なノルマが課され、達成できない場合には重いペナルティがあると予告された。

 

A具体的出来事「1ヶ月に80時間以上の時間外労働を行った」

心理的負荷の総合評価の視点
・業務の困難性
・長時間労働の継続期間
  ※休日労働時間を含む
心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例
【弱になる例】
・1ヶ月に80時間未満の時間外労働を行った。
※他の項目で評価されない場合のみ評価する。
●1ヶ月に80時間以上の時間外労働を行った。
※他の項目で評価されない場合のみ評価する。
【強になる例】
・発病直前の連続した2ヶ月間に、1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった。
・発病直前の連続した3ヶ月間に、1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった。


 このような流れで労災認定の具体的な判断が行われ、心理的負荷の総合評価が「強」とされたものは、業務よる強い心理的負荷が認められたとして、上記Aの要件を満たすと判断されます。

 今回の改正においては、様々な事象についてその基準の具体化が行われており、精神障害にかかる労災認定の増加が予想されています。企業としては安全配慮義務違反を問われないよう、今回の基準を理解し、労働時間の削減をはじめとした労務管理の改善を進めなければなりません。

■参考リンク
厚生労働省「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を策定」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z3zj.html

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。



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